
かつて約300億ウォン(約33億円)相当の株式を保有し、「芸能界の株式富豪」として知られながらも、突如としてカメラの前から姿を消し、アメリカの現地法人に就職した女優がいます。その人物とは、韓国の食品大手「オットギ(Ottogi)」のハン・ヨンジュン(咸泳俊)会長の長女であり、ミュージカル俳優としても活躍していたハム・ヨンジ(咸妍智)氏です。
ハム・ヨンジ氏は、財閥一族の子女という華やかなバックグラウンドに甘んじることなく、自ら「俳優」という職業を選択しました。米ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アーツで演劇を学んだ後、2014年にミュージカル『アマデウス』でデビュー。その後も『ノートルダム・ド・パリ』や『チャミ』など、数々の著名な作品に出演し、実力派のミュージカル女優として着実にキャリアを積み重ねていきました。韓国のエンターテインメント業界において、財閥の令嬢が過酷な舞台芸術の世界に本格的に飛び込むケースは非常に稀であり、彼女の挑戦は当時から大きな注目を集めていました。
注目を集めた莫大な資産規模とYouTubeを通じた親しみやすさ

ハム・ヨンジ氏が広く世間の注目を集めるきっかけとなったのが、保有するオットギ社の持株比率でした。過去に公表された韓国の上場企業大株主一族における株式保有状況によると、彼女が保有していたオットギ株の評価額は、一時300億ウォンを超えていたと報じられています。

特に2018年には、約300億ウォン相当の株式評価額を記録し、韓国の「芸能界を代表する株式富豪」の一人として主要メディアで大々的に取り上げられました。なお、この数字は当時の株価をベースにした評価額であり、現在の資産規模とは異なる可能性がありますが、彼女の存在を社会に強く印象付ける出来事となりました。
その後、2020年からは自身の個人YouTubeチャンネル『ハム・ヨンジ(Ham Yonji)』を開設し、大衆とのコミュニケーションを本格化させました。動画内では、夫であるキム・ジェウ氏との温かい結婚生活や日常のありのままの姿を率指に公開。財閥3世という立場でありながら、飾り気のない親しみやすいキャラクターが多くのファンを魅了し、約47万人のチャンネル登録者を持つ人気クリエイターとなりました。ベールに包まれていた財閥の私生活をオープンかつ好意的に発信する姿は、ネット上でも非常にポジティブな評価を得ていました。
転機となった2023年:YouTube活動の終了と米国での新たな一歩
しかし、順調に見えた彼女の活動は、2023年末に大きな転機を迎えることになります。ハム・ヨンジ氏は、約4年間にわたり愛情を注いできたYouTubeチャンネルの運営を終了することを突如発表しました。その際、彼女は「アメリカで韓国料理(K-FOOD)をいかによりよく世界へ広められるかについて、深く悩んでいる」と語り、今後の活動拠点の変更を示唆していました。
その言葉は単なる抱負に留まらず、実際のビジネスの場へと引き継がれました。ハム・ヨンジ氏は、米国でのインターンシップ研修期間を経た後、2024年5月にオットギの米国法人(オットギ・アメリカ)に正式に入社しました。現在は同法人にて、マーケティングをはじめとする多角的な事業実務を経験しながら、北米市場における戦略業務を本格的に学んでいると報じられています。
これは、ミュージカル女優やインフルエンサーとして華やかなライトを浴びていた過去とは一線を画す、実務家としての新たなライフスタイルです。2024年以降、韓国国内での表立った芸能活動は行われておらず、事実上、活動の基盤を完全に米国法人の業務へとシフトした形となっています。ただし、現時点で本人から芸能界からの「公式な引退」を宣言する表明はなされていません。
夫婦で牽引する「オットギ」のグローバル事業と今後の展望
さらに、ハム・ヨンジ氏の夫であるキム・ジェウ氏も、オットギの米国事業において重要な役割を担っています。現地メディアの報道によると、キム氏は2025年9月付で「オットギ・アメリカ・ホールディングス」の代表取締役に就任することが決定したとされています。これにより、夫妻が二人三脚でオットギの最重要海外拠点である北米事業を支える体制が整いました。
かつて「300億ウォンの株式富豪」「財閥3世」というスポットライトを浴びていたハム・ヨンジ氏は、現在、華やかなステージから離れ、一企業人として海外市場の最前線で汗を流しています。韓国を代表する食品メーカーであるオットギは、看板商品である「ジンラーメン」をはじめ、近年北米市場でのK-FOOD需要の急速な拡大に伴い、グローバル展開を加速させています。自ら現場の実務へと飛び込んだ彼女の歩みが、今後の北米事業にどのようなシナジーをもたらすのか、業界内外から高い関心が寄せられています。



