
メジャーリーグの「不文律」の境界線はどこにあるのだろうか。メジャーリーグの新人投手が、初登板で斜めに被っていた帽子のせいで審判から注意を受けるという異例の事態が発生した。事態は監督の猛抗議と退場処分にまで発展。審判団は相手打者からの指摘があったと釈明したが、名指しされた当の打者は「そんなことは一言も言っていない」と完全に否定する展開となっている。
セントルイス・カージナルスは5日、コロラド・ロッキーズとの遠征試合で7-6と勝利を収めた。しかし、試合結果以上に、6回裏に起きた不可解な騒動がファンの間で大きな注目を集めている。
セントルイスのオリバー・マーモル監督は、4-1とリードしていた6回裏、ハンセル・リンコン(24)を新たな投手としてマウンドに送った。ドミニカ共和国出身のリンコンは、2019年にセントルイスと国際フリーエージェント契約を結んだ期待の若手であり、この日が記念すべきメジャーリーグ初登板だった。
リンコンは最初の打者ハンター・グッドマンをセカンドライナーで打ち取り、上々の滑り出しを見せた。しかし、後続の打者へ投球を続けようとしたその時、ダグ・エディングス球審が突然試合を中断させた。球審はリンコンに対し「帽子を真っ直ぐ被り直せ」と指示した。リンコンが帽子のつばを左に斜めに傾けて被っていたことを問題視したのだ。
リンコンはわけがわからないといった困惑の表情を浮かべながらも、指示に従い帽子を直した。しかし、皮肉にも直後から彼の投球内容は急激に乱れることとなる。三塁打を許し、暴投で失点。さらには場内ホームランを浴び、その後も安打を許して降板を余儀なくされた。
マーモル監督は、次の投手ジャスティン・ブリュールの練習投球中に球審へ激しく抗議した。明文化された規定にもないことをなぜ審判の権限で強要するのか、という強い憤りだった。抗議が長引くと、エディングス球審はセントルイス側へピッチクロック違反を適用。さらにヒートアップするマーモル監督を退場処分とした。
マーモル監督は試合後の会見で、「審判はうちの新人に対し『私がいるグラウンドでは、そんな風に帽子を被ることは許されない』と言い放った」と明かし、「これは明らかに自身の権限を誇示するための行動だ。過去を振り返れば、ドントレル・ウィリスやC.C.サバシア、ペドロ・ストロップのように、帽子をはるかに傾けて被っていた選手も数多くいたはずだ」と強く批判した。
一方、エディングス球審は「これは一種の不文律だ」とし、「打者の集中を妨げるような要素があれば、審判として措置をとることができる」と主張。その上で、騒動の責任をコロラドの打者グッドマンに転嫁した。グッドマンが打席に立った際、「あのような被り方は許されるのか」と問いかけてきたという釈明だ。
しかし翌日、当事者であるグッドマンは真っ向から反論した。MLB公式ドットコムに対し、グッドマンは「帽子に関して一言も言っていない。私はボールに集中していたし、リンコンが帽子を斜めに被っていたことすら気づいていなかった」と語った。
結果としてグッドマンは、「新人投手を動揺させた悪質な打者」としてSNS上で非難を浴びる羽目になった。彼は「言ってもいない言葉のせいで自分の名前が取り沙汰され、SNSには不本意な誹謗中傷のメッセージまで届いている」と、災難に巻き込まれた心境を吐露した。


