母親の事業失敗と170億ウォンにのぼる莫大な負債

韓国を代表する実力派女優として長年トップに君臨するキム・ヘスは、1985年に飲料メーカーのCMでデビューして以来、30年以上にわたり第一線で活躍を続けてきました。デビュー当初、父親は芸能界入りに猛反対したものの、母親は彼女の才能をいち早く見抜き、現場マネージャーを自ら買って出るなど熱心にサポート。「スター製造機」と呼ばれるほど献身的に娘を支えました。しかし、この親密な母娘関係はのちに、キム・ヘスを経済的破綻へと追い込む大きな引き金となります。
キム・ヘスが成人した後、母親は周囲の勧めもあり、十分な準備がないまま多角的なビジネスに乗り出しました。無謀とも言える事業展開はことごとく失敗し、その過程で発生した莫大な借金はすべて、トップ女優として活躍していたキム・ヘスに押し付けられる形となりました。彼女が昼夜を問わず働き、血のにじむような努力で築き上げた全財産、約170億ウォン(約19億円)は、母親の債務返済のためにすべて消滅することになりました。
「絶縁」と賃貸暮らしから這い上がったトップ女優の執念

2012年、これ以上は返済不可能な規模にまで膨らんだ債務を前に、キム・ヘスは全財産を失い、苦渋の決断として母親との関係を完全に断ち切る「絶縁」を選択しました。華やかなスポットライトを浴びるトップスターでありながら、プライベートでは一瞬にしてすべてを失い、10年以上にわたり質素な賃貸住宅を転々とする生活を余儀なくされたのです。韓国には「伝貰(チョンセ)」と呼ばれる高額な保証金を支払う独自の賃貸システムがありますが、当時はその資金繰りにも困窮するほどの極限状態だったとされています。さらに、長年交際していた恋人との別れも重なり、彼女の人生は最も暗い底へと沈んでいきました。
しかし、彼女は「女優」という本業を諦めませんでした。2013年、日本の人気ドラマ『ハケンの品格』の韓国リメイク版である『オフィスの神様』で主人公「ミス・キム」を圧倒的な存在感で演じきり、再び高視聴率を獲得。その後も、サスペンスドラマの金字塔『シグナル』や、映画『チャイナタウン』『国家破綻の日』などで次々と大ヒットを記録し、代替不可能な演技力を証明し続けました。努力の末、彼女はソウルの最高級住宅街として知られる漢南洞(ハンナムドン)に自宅を自力で購入し、名実ともに完全な復活を果たしました。
2019年に再燃した母親の債務問題と韓国社会の「借金MeToo」
しかし、母親との絶縁から7年が経過した2019年、再び世間を揺るがす騒動が彼女を襲います。母親が京畿道(キョンギド)楊平(ヤンピョン)のタウンハウス開発事業を名目に、知人から約13億ウォン(約1億4000万円)を借り入れたまま返済していないという債務不履行事件が報道されたのです。被害者の中には現職の国会議員も含まれており、「トップ女優キム・ヘスの名前を信用して資金を貸した」と主張したため、波紋は急激に広がりました。
この騒動に対し、キム・ヘス側は「2012年にすでに絶縁しており、今回の事件とは一切無関係である」との公式見解を発表。最高裁判所の判例に基づき、成人した子供が親の個人的な債務に対して法的な返済義務を負うことはない点を明確に示しました。当時、韓国芸能界では親の過去の金銭トラブルを告発する「ピートゥ(借金MeToo)」運動が相次いでいましたが、キム・ヘスに対しては、過去に一人で巨額の負債を抱え込み苦しんできた経緯が公に知られていたため、世論からは非難ではなく、同情と温かい応援の声が圧倒的に多く寄せられました。
「青龍の女神」からさらなる挑戦へ、観客を魅了し続ける存在感

逆境を跳ね返したキム・ヘスは、その後もドラマ『シュループ』や映画『密輸』、最新作『トリガー』に至るまで、出演するすべての作品を大ヒットへと導いています。また、韓国のアカデミー賞とも呼ばれる「青龍映画賞」で、30年間にわたり司会進行を務め「青龍の女神」の異名をとった名誉あるポジションを勇退した際も、業界内外からその引き際の美しさに惜しみない拍手が送られました。親の呪縛から解き放たれ、自らの実力と意志で「再生」を遂げた彼女の歩みは、今も多くの人々に深い感銘を与え続けています。

