
現時点で世界最高の左腕であるクリストファー・サンチェス(フィラデルフィア)が、50.2イニング連続無失点という記録で先手を打った。時速100マイル(160.9km)の剛速球を呼吸するように投げる「人間火炎放射器」ジェイコブ・ミゼラウスキー(ミルウォーキー)は、95球15奪三振の完封勝利で応戦した。さらに、昨年のワールドシリーズの英雄も加わった。山本由伸(ドジャース)が8回2死までパーフェクトピッチングを披露し、サイ・ヤング賞レースへの参戦を宣言した。ナショナル・リーグの「史上最高レベル」のサイ・ヤング賞争いが佳境を迎えている。
先月、38.1イニングを投げて1失点という好投を見せながらも、サンチェスに押されて「月間最優秀投手」を逃したミゼラウスキーは、13日にフィラデルフィアを相手に、サンチェスが見守る中で歴史的なピッチングを披露した。投球数95球で9イニングを無失点に抑え込んだ。四球はなく、許した安打はわずか1本、奪三振は15個を数えた。被安打1本でパーフェクトピッチングを逃した形だ。
ミゼラウスキーのこの日のピッチングが驚異的なのは、投球数と奪三振の数だ。奪三振が増えれば、投球数も比例して増えるのが常である。しかし、ミゼラウスキーはいわゆる「マダックス(100球未満での完封勝利)」を達成しながら、15個もの三振を奪った。
マダックスとは、現役時代に攻撃的な投球と厳格な制球力を武器に、少ない投球数で完投・完封を何度も記録したグレッグ・マダックスの名に由来する概念である。通常は三振よりも打たせて取るピッチングが多くなければ達成できない記録だ。しかし、この日のミゼラウスキーは15奪三振とマダックスを同時に達成した。ストライクゾーンを爆撃するかのように剛速球を投げ込み、相手打者たちはゾーンに入ってくるのが分かっていながら手が出せないという結果となった。「マダックス」基準での15奪三振は史上最多記録である。昨年5月にタリク・スクーバルが打ち立てた13奪三振の記録を塗り替えた。
翌14日には、ドジャースの山本がシカゴ・ホワイトソックスを相手に、8.1イニングを1被安打1失点という完璧に近いピッチングを見せた。8回2死まで続いていた「パーフェクトゲーム」は、遊撃手ムーキー・ベッツの失策により、アウトまであと4つというところで途切れてしまった。山本は9回、ホワイトソックスの先頭打者に本塁打を浴び、アウトを一つ取ったところで降板した。パーフェクトゲームもノーヒットノーランも惜しくも逃してしまったが、それ以外に欠点を見つけるのが難しい投球だった。

シーズン全体の約40%を消化した現在、ナショナル・リーグのサイ・ヤング賞争いは、ひとまずサンチェスとミゼラウスキーの二強体制となっている。サンチェスは93.1イニングで防御率1.54、113奪三振を記録中だ。ミゼラウスキーは87イニングで防御率1.34、131奪三振を記録している。勝敗は両者ともに8勝2敗で並んでいる。つい最近まではサンチェスがやや優勢という評価だった。直前の登板まで50.2イニング連続無失点を達成したインパクトが大きかったからだ。防御率やイニング数でもサンチェスが上回っていた。しかし、13日のピッチングにより、現在はミゼラウスキーがサンチェスをわずかにリードする構図となった。防御率でミゼラウスキーがサンチェスを抜き、イニング数でも大きく差を詰めた。ミゼラウスキーに一撃を食らったサンチェスは、15日にミゼラウスキーが所属するミルウォーキーを相手に先発登板する。サンチェスが圧倒的な投球を見せれば、再びミゼラウスキーを追い抜く可能性もある。
サンチェスもミゼラウスキーも、例年であればサイ・ヤング賞を確信してもいい成績を残している。そのため、彼らの競争構図は非常に強固に見える。変数となり得る数少ない選手の一人が山本だ。シーズン序盤は苦しんだが、急速に調子を上げている。パーフェクトピッチング寸前までいった14日の投球をきっかけに、さらにギアを一段階上げる可能性もある。



